井の中の蛙 ジンベイを知らず

されど、ほにゃららの深さを知る

悪循環をどう断ち切るか

カウンセリングにいらっしゃる方の多くは、大抵の場合、負のスパイラルにはまり込んでいるように感じる。

 

最後の砦のような感じでカウンセリングを活用するので、カウンセラーと対面した時にはすでに事態が深刻化・複雑化していることが少なくない。

もう少し早く来てくれたら…と思わずにはいられないが、なかなかカウンセリングを受けるということ自体が敷居の高い行為であることは重々承知しているし、そもそも赤の他人に気軽に相談できるような簡単な話でもない。誰にだって見られたくない面はあるだろう。解決しにくくなる問題というのは大体がそういうものである。

 

何をやっても立ち行かない。もうどうしたら良いのかさっぱり分からない。お手上げ。

 

そういう状態でカウンセリングに来て、こちらが話を聞いてみると、結構な確率で悪循環にドはまりしている。

 

例えば、

思春期の娘が言うことを聞かない。暴言を吐く。時には暴力もある。時間にルーズで、遅刻しそうな時も急がない。他の子ともトラブルが絶えない。もう随分長い間、まともに会話が出来ていない。顔を合わせれば喧嘩になってしまう。娘の言葉に傷ついてしまう。生きた心地がしない。

 

そう涙ながらに語る母親の様子を見ていると、横に座っている娘に対してほんの少しだけ背を向けるような形で座っている。この子はあぁでこうで、と話す時は、ちらっと娘を見やる。当の娘は我関せずといった様子で漫画を読んでいるが、私が話題を振った時に顔を上げることはする。すると母親はすっと顔を背ける。

 

娘の方にも何か問題があるのかもしれないし、母親の方にも何か問題があるのかもしれない。これだけの情報(母親の言い分)だけでは真相は分からない。けれど、少なくとも母親がすでに我が子に対して苦手意識を持ってしまっていることは一目瞭然だ。

 

初対面の私が見てすぐに分かるということは、きっと娘の方も感じ取っているはずである。

 

そういう関わりを家庭内で無意識的にしているとしたら、まともに会話が出来ないのも無理はない。

 

この場合の悪循環は、例えば、

母親の”娘を恐れるような態度”が、娘を苛立たせたり不安にさせたりして、娘の暴言に至り、それに傷ついた母親はより一層娘を恐れるようになり、コミュニケーションが上手くいかない…というようなことが考えられる。

 

もちろん、これだけが答えではない。あくまで一例である。

 

 

良くない状態が長い間続いているということは【同じことが繰り返されている】と考えることが出来る。つまり、悪循環に陥っているということである。

その悪循環を断ち切れれば良い循環が生まれ、事態は好転する。

 

悪循環を断ち切る手っ取り早い方法は、新しい風を吹かせることである。

 

いつもしないようなことをする。

いつも怒っているなら、褒めてみる。いつも悲しんでいるなら、笑ってみる。

いつも言い返してしまうなら、ちょっと我慢してみる。

いつも言わずに我慢しているなら、言い返してみる。

 

そうすると、いつものパターンに陥らずに、新しいパターンが出現する。

それが良い方に転ぶか、悪い方に転ぶかは、その時の様々な状況に寄って変わってくるが、少なくとも新しい反応があることで、新しい気付きを得ることが多い。

 

「言い返してみたら、相手がきょとんとして。言い返せたのが自分でも驚きです。」

「ちょっと我慢してみたら、相手が急に反省し始めたんです。相手も調子が狂ったのかな?(笑)」

 

新しい気付きを得るので、新しい方略も本人が勝手に思いつく。

こうしたらこうなったので、次はこうしてみたら良い気がする、と自然に考えを進めて事態を収束させてゆくのだ。

 

 

もし『事態が悪化する一方だ…』と悩む時があったら、悪循環になっていないかどうかを考えてみてほしい。そして、その中で新しい行動が出来そうな所があれば、それをほんのちょっとだけやってみてはどうだろうか。試しに、ちょっとだけ。

 

心理士として出来ることは、一緒に悪循環を見つけること、悪循環を構成する要素の中で新しい風を吹かせるとしたらどこが一番やりやすいかを考えること、「試しにやってみてはどうだろう」と背中を押すこと、くらいだ。

これだけしか出来ないけれど、それだけは一生懸命がんばりたい。