井の中の蛙 ジンベイを知らず

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臨床心理士と医師の<話の聞き方>の違い ー3/23放送『達人達』(NHK)を見てー

 昨夜、TVを点けると、NHKで『達人達』という番組がやっていた。

2人の“達人”が登場し、お互いの領域に足を踏み入れて対談する、というもの。

 

昨夜は、女子プロレスラージャガー横田さんと、小児科医の高橋孝雄さんが出演していた。

 

なんとなくチャンネルをそのままに見続けた。

ジャガー横田さんのざっくばらんな子育て論が目を引いたし、その話を上手に聞き出している高橋さんが小児科医だというのにも興味が湧いたからだ。
また、高橋さんの話し方がとても柔らかく、まさに子どもを相手にした医師という感じで好感が持てたというのもある。

すでに番組の半分ほどが終わっていたが、それでも十分、お二人の物事の考え方や魅力が伝わってきた。

 

ジャガー横田さんも子育てを経験され、高橋さんも小児科医ということで、話題は子育てに関することが多かった。

 

 

ここで少し脱線するが、私は臨床心理学の道に進んでからずっと、ある疑問を持ち続けている。それは精神科医と並んだ時に差異化できるような、臨床心理士の強みは何だろう』というものだ。

 

臨床心理士はよく“話を聞くプロ”と表現されるが、話を聞くなんて、練習すればだれでも出来ることだ。医師という器用で頭の良い人ならなおさらである。

臨床心理士なんて、精神科医やほかの医師と比べて、出来ないことだらけである。
処方も出来ない、手術も出来ない、診断も出来ない、注射も出来ない、何も出来ない。出来ることは、患者さんの話を聞いて寄り添うことだけである。

 

そんな臨床心理士は、精神科医やその他の医師に上位互換されてしまうのではないだろうか、という危機感がずっとあったのだ。

 

それでも臨床心理士はこれまでもなんだかんだ社会の中で生き続けてきたし、最近では公認心理士という国家資格も誕生した。

私が理解できていないだけで、きっと臨床心理士の強みがあるのだろうとも思ったが、どうにもしっくりくる結論が出ずに何年も臨床心理士をしていたのだ。

 

 

『達人達』に出演されていた高橋さんは、とてつもなく優秀な小児科医だった。

 

「小児科医は、子どもの代弁者にならないといけない。子どもの言葉にならない思いに気付いて、それを代弁してあげなきゃいけない。そして、親に寄り添わないといけない。子どもの代弁者となり、親の話(訴え)をきちんと聞くことが、小児科医の仕事だ。」

 

このようなことを言っていた。

 

これまでずっと児童福祉領域で子どもとその養育者に関わってきた私は、高橋さんの語ることすべてに『ごもっともだ!!!!!』と拍手しそうになったし、感動したし、『この人のいる現場では臨床心理士なんて必要ないのだろうな』とふと思い、ちょっとめげた。

 

しかし一方で、高橋さんのスタンスと、臨床心理士である私のスタンスは、決定的に何かが違うということも感じた。

 

番組内で、臨床心理士と医師は決定的に違うな、と思ったやり取りがある。

それは、ジャガー横田さんが「○○について(子育てに関することだったが内容は失念)心配しているんです」と言ったのに対し、高橋さんが「それを心配する必要はありません」ときっぱり言ったことだった。
その一言で、ジャガー横田さんは「そうなんですね」と少し驚いたような表情を見せた。そしてその後、心配する必要がない理由を高橋さんが述べ、それを聞いてジャガー横田さんは安心したようだった。

 

このやり取りは、臨床心理士との会話ではあまり見られないものなのではないだろうか。 

臨床心理士が上記のように相談を受けたら、きっと高橋さんのようにきっぱりと“否定”することはしないだろう。

 

そう。高橋さんは、きちんと否定するのだ。

否定し、否定する根拠を述べる。その根拠が非常に妥当で、信ぴょう性も高いため、患者は正しい情報を得て安心するのだ。

 

臨床心理士は、たぶん否定しない

いやもちろん、文脈として、きちんと否定することはある。その必要がある時もある。

ただ、少なくとも番組内であったやり取りでは、もし私なら否定しないだろうなぁと思った。『そこまで心配しなくても良いのになぁ』という思いはある。しかしその思いと同時に『どうしてそこまで(心配しなくて良いことなのに)心配するのだろう』とも思うのだ。

 

そう考えた時、返答は「それは心配しなくて良いです」とはならないのだ。

 

 

高橋さんは、目の前の患者さんに対して、どのような情報や治療が患者さんにとって必要かを的確に知るために、患者さんの話を聞くことが必要だと考えているような気がした。

自分の数ある武器の中でどれを使うかを選択するため、情報の一つとして、患者さんの話を聞くことを必要としている。

 

 

つまり、心配事を抱える患者に対し、

◎医師は、患者が抱える心配事を聞いて、医師自身が正しい情報を話すことで、患者安心させる

臨床心理士は、患者が抱える心配事をすべて吐き出せるように合いの手を入れることで、患者安心する

 

医師は“話してoutputして)”患者を安心させ、臨床心理士は“聞いてinputして)”患者を安心させる。

 

こういう違いがあるんじゃないかなぁと思った。

 

少し前に、発見することの大切さ、という記事を書いたが、このスタンスは私が臨床心理士として生きているからこそ培われた観点なのだろうな、としみじみ感じた。

 

sechigara.hateblo.jp

 

 

回し者とかじゃないけど、高橋さんの言葉や考えにとっても好感が持てたので、この人の本を読んでみようと思っています。

 

小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て

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 ほんと優しい顔してるなぁ~。ザ★小児科医!って感じだぁ